「迷信と技芸の国」日本

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   タイムズ紙が創刊された1785年は、日本では江戸時代後期、老中田沼意次が幕政の改革を行なった田沼時代に相当する。イギリスから見れば、地球の裏側の極東の小国である上に、鎖国政策で国を閉ざしていたから、日本に関する記事があまり多くないのも当然だろう。とは言え、創刊の1785年にすでに日本に関する言及は見られる。スウェーデンとデンマークを取り上げた10月4日の記事だ。この記事は、世界の国々を成長途上の若々しい国と衰退する国に分け、日本を中国、インド、イスラーム教の国々らとともに、衰退する国に分類している。百年後であれば、日本に対する見方は異なったであろう。

   翌日の10月5日にはインドや中国とともに日本を紹介する小さな記事が掲載される。記事は冒頭からいきなり、「日本列島に我々が見出すものは、底知れぬ無知と迷信が機械工芸の大きな進歩と結びついていることである。」と、日本の特質の描写から始まる。啓蒙の世紀の只中にあるヨーロッパ人の眼から見れば、東洋人が無知と迷信の民に映ったであろうことは今では容易に想像がつくが、無知と迷信の民が同時に技芸を良くする民でもあることを記事は指摘し、「これが事実であれば、哲学的好奇心の対象である」と、好奇の眼差しが伺える。そして、「文明化された近隣諸国の中で日本が独立を維持することができるかどうか、国家としての性格を持つまでに成長するかどうかは、何とも言えない。」と、日本が不安定な地政学的環境に置かれていることを強調する。さらに、「山、岩、荒れ狂う海、地震、火山が日本に粗く乱れた外観を与えている。日本人は乱暴、粗暴で扱いにくい。」と、厳しい自然の下に置かれた日本という、現在にも通じる日本像がすでに提示される。

  「中国系の植民者が山間部により分断された列島の西側に定住した」というような事実に反する記述も見られる。この記事の情報の出所は分からないが、十八世紀後半のイギリスにおける日本観を示していて興味深い。タイムズ紙の日本に関する初めての記事としての歴史的価値を持つ。

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