映像の時代に、新聞の王タイムズ紙は

Permalink to 映像の時代に、新聞の王タイムズ紙は

20世紀になり映画が人々の生活に入り込み、文字だけの世界を窮屈だと感じる感性が出始めた時、イギリス新聞界にもその感性を体現したような人物が現れた。デイリー・エクスプレス紙の編集者アーサー・クリスチアンセンである。クリスチアンセンはレイアウトとデザインこそが新聞が成功するための鍵であるとの信念の下に、普通の読者が平易に読めるリーダブルな新聞作りを追求した。文字のサイズを大きくし、眼に優しいフォントに変え、バナー状の大見出しを多用し、見出し語は短く、大きく、大胆にして読者の関心を引くことを心掛けた。

クリスチアンセンが導入したレイアウトとデザインは、イギリス新聞界に革命的と言ってもよい影響を及ぼした。他紙もデイリー・エクスプレス紙に追随し、紙面のレイアウトの改革を行なった。それまで一般的であったコラムに文字がぎっしり詰まったページは過去のものとなり、ページに白地が目立つようになった。新聞が、文字で情報を伝達する媒体だけでなく、読者の眼を受け止める画面でもあることを意識した瞬間だと言って良いかも知れない。

タイムズ紙はこの流れにどう対応しただろうか。創刊後100年以上経過し、今やイギリス新聞界に君臨するタイムズ紙にとって、新しい動きに素早く反応するのは容易ではなかったようだ。読者のために腰を低くしてサービス精神を発揮することなど、新聞の王に相応しい態度ではない。タイムズ紙は、新しい動きを軽く受け流したのであろうか。

そうではなかったようだ。タイムズ紙はここでも歴史に名前を残した。タイポグラフィーの世界で。現代人になじみのあるフォント、タイムズ・ニュー・ロマンと呼ばれる新しい文字の型を生み出したのだ。タイムズ紙によれば、このフォントは「男性的で英国的で真直ぐで簡素で、気紛れと軽薄から無縁であること」を表しているという。タイムズ紙は、フォントという新しい衣装にみずからの伝統の魂を込めたと言えないだろうか。

tThe Times 物語一覧へ戻る