公共の立場に立ったタイムズ紙

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新聞の報道が客観的、中立的であるかどうかは、議論の分かれることかも知れない。同じ出来事を報道する場合でも、新聞によって報道の視角は異なり、また特定の政策に対する見方も異なる。紙面の構成にもおのずからその新聞の色合いが出る。アメリカの新聞のように、大統領選に際して、特定の陣営への支持を明確にする場合もある。だが、政党の機関紙とは異なり、一般紙は特定の政治的主張や主義に拘束されていないという意味では、客観的、中立的立場を追求していると言えるだろう。日本の代表的な日刊英字新聞Japan Timesの一面題字の上には同社のモットー”Without Fear or Favor”が掲げられているが、これは「不偏不党、公正」という意味だ。だが、このような報道の立場は、歴史を遡れば自明のことではなかった。

タイムズ紙は、元々創刊当初は政府の補助金により運営され、政府からの情報を基に報道する傾向にあったが、創刊後20年ほど経過したところで、政府の補助金に頼り、情報源を政府筋に依存する姿勢から決別し、独自の情報収集システムを築き上げる方向に乗り出した。革新的な印刷技術と広告がそれを可能にした。1812年には一時間に片面刷りで250枚した印刷できなかったのが、1827年には両面刷りで4,000枚印刷できるようになったと言われる。また、広告掲載を積極的に導入した結果、広告収入が飛躍的に増加し、政府への依存脱却に大いに貢献した。

政府から政治的にも経済的にも独立したタイムズ紙は、イギリス国民のために発言する立場を鮮明にし、イギリスを代表する新聞との評判を打ち立てることに努めた。政府とは是是非非の関係を保ち、あくまで公共の立場からその論陣を張った。その論陣を率いた編集長トーマス・バーンズは「イギリスで最も権力を持つ男」と時の大法官(上院議長)から呼ばれた。

現在では新聞が、不偏不党で中立公正な立場から報道することは普通のことである。だが、歴史を遡れば必ずしもそうではない。そして、この姿勢を最初に掲げたのはタイムズ紙であったのだ。

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