フォース・エステートの先駆けとしてのタイムズ紙

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「フォース・エステート(The Fourth Estate)」という言葉がある。日本語では「第四階級」あるいは「第四権力」と訳される。第一権力は僧侶、第二権力は貴族。僧侶と貴族は、ヨーロッパの中世で大きな力を持った二大身分だ。そして、第三権力は平民。僧侶でも貴族でもないが、人口の大部分を占める層が、近代になると次第に力を蓄えるようになった。フランス革命勃発の年に出版されたシエースの『第三身分とは何か』の「第三身分」も、平民のことだ。平民が主役の時代が到来しつつあった。

ところが、ちょうど同じ頃、第四権力という言葉が使われるようになった。僧侶でも貴族でも平民でもない存在を指す言葉だ。最初は様々な意味で使われたようだが、何時の頃からか、新聞に代表されるメディアを指す言葉として定着した。メディアが政治を動かす存在であることが、人々によって意識されるようになった証拠である。

そしてタイムズ紙は、第四権力の名に相応しい影響力をイギリス政治に及ぼしたと言われている。象徴的な例を一つ挙げる。あのナポレオンの甥のルイ・ボナパルトがクーデターによってフランス皇帝になった時、イギリス外相パーマストンは独断でこれを承認した。これに対してタイムズ紙はパーマストンとルイ・ボナパルトを攻撃する論陣を張り、女王もパーマストンを非難するに及び、パーマストンは辞任に追い込まれ、内閣も辞職するに至った。後継のダービー首相は議会の演説の中で、新聞が政治への影響力を強めている現状を憂慮し、タイムズ紙を名指しで批判したのだ。

これはおそらく、新聞の影響力の大きさが議会の場で初めて公式に認められた瞬間だろう。

ルイ・ボナパルトをめぐるイギリス政治とタイムズ紙の事例は、新聞が政治を動かした歴史の先駆けとして記憶することができるだろう。

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