タイムズ紙は印刷機の導入でも時代の先頭に立っていた

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タイムズ紙が創刊された頃、印刷技術はまだ手動で、グーテンベルクの時代からさほどの進歩を見せていなかった。だがタイムズ紙の創刊後二十年ほど経過すると、印刷の世界にも技術革新の波が押し寄せるようになった。すでにイギリスでは、蒸気機関の改良と様々な紡績機の発明をバネとして綿工業において生産の効率化と機械化が進み、後に産業革命と呼ばれる生産・交通システムの大転換が軌道に乗り始めていた。繁栄を謳歌した十九世紀の大英帝国に向けて社会の様々な局面で舞台が整いつつあったのだ。実際、タイムズ紙が創刊された1780年代は、カートライトによる蒸気機関等を動力とする力織機の発明、ワットによる蒸気機関の往復運動を回転運動に変換する技術の発明と、蒸気機関に関わる革新的な発明が相次いだ。そして、タイムズ紙の印刷技術に大きな転換を与えることになったのも、蒸気機関であった。

画期的な印刷技術を発明した人物の名前はフレデリック・ケーニヒ。19世紀初めにイギリスに来たドイツ人技師だ。ケーニヒは蒸気機関を動力とする平圧式印刷機を開発し、さらにシリンダー印刷機も製作して印刷効率をさらに高め、印刷機の機械化を一気に推し進めた。ケーニヒは当初から自分が発明した印刷機を新聞の印刷に使うことを考えていたらしく、最新の機械をモーニング・クロニクル紙のジェイムズ・ペリーとタイムズ紙のジョン・ウォルター二世に見せたようだ。価格が高すぎるため購入を躊躇ったペリーに対して、ウォルターはこの最新の機械が将来、自身の経営する新聞に多大な経済的恩恵をもたらすことを即座に見抜き、その場で二台購入することに合意したと言われる。いつの時代にも新しい技術や動向をいかに判断するかが、第一級の経営者であるかどうかの試金石になる。タイムズ紙の社主ウォルター二世はその先見の明により、第一級の経営者としての資質を発揮したと言えよう。

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