タイムズは政権の政策に大きな影響力を持っていた

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タイムズ紙が時の政権の政策に大きな影響力を持っていたことを示すエピソードを一つ。19世紀前半のイギリス政治の争点の一つに穀物法があった。穀物法とは、輸入穀物に高額関税を課す法律で、穀物を生産する土地を保有する地主の利害を守るための保護貿易制度だ。自由貿易を志向する産業家は穀物法に反対した。選挙制度を通じて地主の影響力が依然として大きい議会の外では穀物法に反対する組織的な運動が盛り上がり、1840年代には穀物法が俄然、議会の大きな争点に浮上した。

基本的に産業家の立場に立つタイムズ紙は、穀物法反対の論陣を張った。そして、1845年12月4日のタイムズ紙に突然、次の記事が掲載されたのだ。「内閣の決定はもはや秘密ではない。1月の第1週には議会が招集され、女王の勅語の中で穀物法の最終的廃止に向けた審議が勧告されることになるだろう。」この記事が引き起こした騒ぎは大きかった。首相のロバート・ピールは女王への書簡の中で、「陛下の臣下が穀物法の即時全面的廃止に全会一致で賛成したとの記事は全く根拠のないものです」と弁解を行なったが、公には記事に対する反論は行なわなかった。最終的に、穀物法は1846年ピール内閣により廃止された。

ところで、穀物法を巡る情報をタイムズ紙がすっぱ抜いた話には後日談がある。首相に批判的なタイムズ紙がどうして、政府系新聞すら知りえない情報を入手することができたかを巡って、様々な憶測が飛び交った。その中で長く語り継がれることになったのは次の噂だった。ピール内閣の官房にいたシドニー・ハーバートがノートン夫人というシェリダンの孫娘にあたる美貌の女性と密会している時に内閣の決定を漏らし、当時お金に困っていたノートン夫人がタイムズ紙にこの情報を持ち込み、500ポンドで売ったと言うのだ。根拠のない話しではあったが、この噂は忘れられることなく、その後膨らみ、ジョージ・メレディスの”Diana of the Crossways”という小説に素材を提供することになった。

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