クリミア戦争④

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タイムズ紙がクリミア戦争に際して政治を動かすほどの大きな影響力を及ぼしたことには、編集長以下多くの人々の活躍が与っているが、その中でもウィリアム・ハワード・ラッセルの存在は大きい。ラッセルはクリミア戦争の戦地に赴き、前線のナマの状況を銃後に向けて報道した従軍記者である。

戦士と共に戦地に行き記録を残した人々は紀元前の昔から存在したが、新聞というメディア向けに戦場の記事を書き、新聞というメディアを通して戦争当事国の国民や政府を促し具体的な行動を取るに至らせたのは、クリミア戦争の時のタイムズ紙が最初である。その意味では、近代従軍記者の歴史はラッセルとともに始まると言えるだろう。

実際のところ、イギリス軍の拙劣な軍事作戦や戦地の医療の惨状をラッセルがタイムズ紙を通じて明らかにしなかったならば、義捐金の募集も、ナイチンゲールらの看護婦派遣も、戦争の効率的遂行のための政府の組織改革も、実現しなかっただろうと言われているくらいだ。
タイムズ紙はラッセル以外にも従軍記者を派遣し、前線の状況を読者に届けた。その後、多くの新聞は戦争が起こると従軍記者を派遣し、前線の報道で競い合うようになる。20世紀になると、第二次世界大戦やベトナム戦争などを見ると明らかな通り、戦争の記録と記憶の少なからぬ部分は従軍記者によって埋められてきた。ラッセルを筆頭に記者をクリミア戦争の戦地に派遣したタイムズ紙は、戦争報道の歴史においても大きな足跡を残したと言えるだろう。

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