クリミア戦争②

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クリミア戦争の時にタイムズ紙が行なった戦争報道キャンペーンは、一つには政府の組織に向けられた。イギリスはこの時、ナポレオン戦争の時から四十年ほど戦争を行なっていなかったため、大規模な軍隊を国外に派遣する準備が十分に整っていなかった。戦争を統括する独立の省も存在していなかった。そこでタイムズ紙は、軍隊の統制を内閣の下に一元化させることを紙上で主張する。このキャンペーンは政府に組織改革を実行させるまでに成功を収めたと言われている。

また、このキャンペーンは政府の組織を超えて、一国の統治機構にも一定の影響を及ぼすことになった。議会政治、選挙制度の改革が進んでいたとはいえ、この時代のイギリスの政治は依然として少数の貴族の手に握られていた。軍隊も同様にその多くは貴族の子弟で構成されていた。このような状況にあって、クリミア戦争は近代社会において貴族が統治する能力の有するかどうかを測る試金石と見なされた。貴族がクリミア戦争に際して白日の下に晒した統治能力の欠如は、新興中産階級から絶好の攻撃材料と捉えられ、新興中産階級を代弁するタイムズ紙は、近代的な政治の運営に向けたキャンペーンを成功裡に展開することになった。

以上のように、クリミア戦争に関するタイムズ紙の報道からは、クリミア戦争そのものを超えて、貴族が統治する時代から中産階級が政治の主役になる時代へとイギリス社会が転換する時代の諸相までもが、透けて見えてくる。ここまで期待できるのは、同時代に多くの新聞が発行されていたとは言え、タイムズ紙のみである。

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