タイムズが創刊された時、イギリスでは産業革命がすでに始まり、イギリスは世界に先駆けて工業国としての道を歩み始めていた。十九世紀になると世界の工場と呼ばれるようになる。だが、後の時代から振り返ると、この時代はまだ牧歌的だった。企業といっても個人経営が中心の小規模のものであり、また工業化が始まった国はイギリス以外にはなかった。ところが、一世紀後の十九世紀後半になると、企業の規模が拡大し、市場で株式を発行して資金調達する株式会社が多数設立され、また欧米列強の植民地獲得に伴い、鉄道や鉱山を始めとする対外投資が拡大すると、商品の価格や株式など有価証券の動きを迅速に入手するニーズが高まるようになる。銀行に代表される金融の時代がいよいよ始まったのだ。
産業革命はマンチェスター、リヴァプールなどイギリス中部の都市を母体とする。これらの都市が「世界の工場」イギリスを支えたのだ。これに対して、金融の役割が大きくなると、俄然世界の注目を集めたのがロンドンのシティーだ。シティーこそ、「世界の銀行」イギリスの母体である。そして、商品の価格や株式の動きなどの金融情報を最も必要としていたのは、シティーに他ならない。
フィナンシャル・タイムズ(FT)は以上のようなシティーのニーズを受けて、創刊された経済紙である。フィナンシャル・タイムズ以前にも、金融情報の専門紙は存在した。十九世紀に創刊された経済日刊紙の中で、その後世界的に多くの読者を獲得し、現在に至るまで発行されているのは、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルとイギリスのフィナンシャル・タイムズの二紙である。
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