エコノミスト創刊の頃、世は鉄道ブームに沸き立っていた

十九世紀はいろいろな特徴付けができるが、その中でも鉄道は十九世紀を象徴するものと言えるだろう。鉄道が人々に与えた驚きは、この時代の文学作品や絵画等の芸術作品で描かれている。二十世紀が自動車の世紀とすれば、十九世紀は鉄道の世紀だ。リヴァプールとマンチェスター間に鉄道が開業したのは1830年、エコノミスト創刊の13年前のことだ。以来、イギリス各地に鉄道が敷設され、エコノミスト創刊の頃には、総延長距離は2,000マイルに達していた。エコノミストは、イギリスが国を挙げて鉄道ブームに沸き立った、鉄道狂時代とも言われる時に誕生したことを覚えておきたい。
当然のことながら、この鉄道ブームはエコノミストの紙面に反映せずにはいられない。鉄道は多額の投資を要するため、資金を調達する債券市場が欠かせない。エコノミスト創刊の頃、株価等の金融情報は、あるにはあったが、非常に限られたスペースしか与えられていなかった。だが、読者のニーズを敏感に察知した創業者ウィルソンは、創刊半年後には、イギリスの国債だけでなく、アメリカやフランスの国債、外国の株式、鉄道債など、株式金融情報のスペースを大幅に拡充した。鉄道とは直接関わりないが、「貨幣市場(Money Market)」の欄が現れ、外国為替の情報が包括的に提供されるようになるのは、1845年の初号だ。
この鉄道ブームの中で、鉄道を規制する法案が議会に提出された。提出したのは後の首相グラッドストーン。この法案が政府の規制を嫌うウィルソンの自由主義魂に火を点けたのである。