横山 學先生

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横山 學先生
「イギリスの百科事典を手元に!」
Q  先生の研究分野を教えていただけますか?
A 「琉球国使節渡来の研究」-それが私の研究の出発点でした。日本に限らず、世界中にある琉球関係の資料を全て調べようと、様々な図書館を訪問しました。その一つに、ハワイ大学の「宝玲文庫」があります。それは、フランク・ホーレーという英国人が蒐集した、約2000冊からなる琉球関係のコレクションで、それを見るために、私はハワイ大学に何度も足を運びました。そうしていくうちに、この膨大な琉球コレクションを集めたフランク・ホーレー(Frank Hawley)という人物に興味を持つようになったのです。彼は、ロンドン・タイムズの特派員でしたから、ロンドン・タイムズ社を訪問して彼の記事を見せてもらったこともあります。
なるほど。横山先生と、ロンドン・タイムズとのつながりがそこにあるわけですね。
 「そのまま歴史の状況を教えてくれる手がかりに」
Q  歴史的に、ロンドン・タイムズはどのような新聞だったのですか?
A まず、大英帝国の時代に、ロンドン・タイムズの特派員になるということは、外交官のような役割を果たすことを意味していました。つまり、外国の情報を本国に報告するという使命があったようです。実際に、世界中の大英帝国の影響下にある国には、特派員が派遣されていました。そこから考えると、ロンドン・タイムズ社は、民間会社であったものの、その背後には国家という存在があり、イギリスの代表という意識を持っていたといえます。特派員自身もイギリスの一部分であるという公の意識を持っていたのではないかと思います。そういう意味では、今よりもずっとジャーナリズムに対する意識がはっきりしていたでしょう。
 ということは、ロンドン・タイムズを研究することによって、その当時の大英帝国の姿が見えてくるということですね。
その通りです。それから、外地にいるイギリス系の人々にとっても、ロンドンにつながっているという意識を持たせてくれる存在でした。「タイムズ紙が届いているということは、ここの情報もイギリスに届いているのだ」と思えたわけです。ロンドン・タイムズは、広い意味での国家意識を形成する役割を担っていたといえます。
また、日本にもあったと思いますが、どの新聞を読んでいるかということがその人の誇りになる時代がありました。ロンドン・タイムズは、そうしたものを背負っていた新聞とも言えるでしょう。ロンドン・タイムズを読んでいることは、英国人にとっては誇りだったのです。
ホーレー氏も述べていますが、ロンドン・タイムズの紙面は限られていましたが、それで全世界をカバーしなければならなかったわけですから、文章を凝縮する訓練も大変だったようです。
読む方にも教養が必要だったわけですね。
そうです。だから、英国人には、ロンドン・タイムズを読んでいることは誇りだったし、彼らは、ロンドン・タイムズを読むために努力もしていたのです。
Q 先生のお話からしますと、当時のイギリスを研究するためには、
ロンドン・タイムズは欠かせない歴史資料ということになりますでしょうか?
A イギリスだけでなく、世界史を見ていく時にもロンドン・タイムズは必要でしょう。もちろん、ロンドン・タイムズの報道には、抜けていたり、歪んでいる記事もありますが、それ自体が意味のあることなのです。記事が偏っていることが、その時代の偏りであるし、また、記事が欠けているのは、その時代にイギリスとその場所との関係が切れていたという証拠なのです。つまり、ロンドン・タイムズの中でどう扱われているか― それがそのまま歴史の状況を教えてくれる手がかりになるわけです。
“The Times Digital Archive” は一言で表すと、先生にとってどのようなデータベースですか?
私は、TDAは、単に新聞のデータベースではなく、イギリスの百科事典と言えると思います。何でも思いついたイギリスに関する言葉をいれると、結果がでてきますよ。新聞の研究だけでなく、世界史、ヨーロッパ史、イギリス史、英国文化研究などにも利用できるデータベースですね。イギリスという国は、階層社会です。例えば、イギリスには「The Sun」というタブロイド誌がありますが、ロンドン・タイムズを読んでいる人間はそうしたゴシップ誌を読んでいても、読んでいる素振りは一切見せません。日本では、スーツを着たビジネスマンが、漫画や週刊誌を片手に電車に乗っている光景をよく目にしますが、外国から来た人にとっては驚きのようです。それが示すように、日本には日本独特の文化がありますから、それに浸っていては外国のことは理解できません。日本とイギリスでは、絶対的に新聞の読み方が違うし、それぞれの新聞にはそれぞれの役割があります。ですから、ロンドン・タイムズの特徴を紹介することもとても大切でしょう。例えば、ロンドン・タイムズの場合、ある年代までは、ページ数が限定されていて、外国関連の記事は1枚分にしか掲載されませんでした。そうした紙面の限界や、当時の紙面の役割といった歴史的な背景も、タイムズ紙を読む上で重要なポイントになります。タイムズ紙をどのように読むと楽しいか?なども紹介するといいかもしれませんね。
「マイク口版を所蔵ても、TDAを導入する価値は十分にある」
Q 今回、オンライン版を利用していただいて、
マイクロフィルム版では実現できなかったことが可能になりましたか?
A 僕は、マイクロフィルムもオンラインにも、両方の良さがあると思います。どちらかがどちらかを消し去るようなものではありません。マイクロの良さの一つは、オフィシャルインデックスがあることです。何でもキーボードを叩けば出てくるものでありません。そう信じてしまったら、見つけられないものもたくさんあるのです。むしろ、オフィシャルインデックスを見て、文字でなぞりながら、その他にどんな関連記事があるのかを調べていくことも大切です。逆に、オンライン版では、単語さえ入力すれば記事を検索してくれるし、スピードの点から言えば、マイクロよりはるかに便利です。両者ともそれぞれの使い方がありますね。マイクロ版を所蔵していても、オンライン版を導入する価値は十分にあると思いますよ。
Q 新聞がデータベース化することにより、歴史研究はどのように変わっていくと思われますか?
A いい方向にも、悪い方向にも変わるでしょうね。もちろん、単純に事件や事実の裏づけがとれるのはいいことですが、簡単にどこからでも情報が取れることは本当にいいことかどうかという疑問が残ります。人間が考えていく中で、時間的なプロセスが必要な場合もあるしょう。つまり、資料を探す、何かを見つける、そして次を辿っていくという手順が、あまりにも簡単になりすぎると、すぐに事実だけに飛びついてしまい、その間の想像力を養えないのではないかと思いますね。
そうですね。試行錯誤する過程や、想像力を働かせる場面が失われてしまうということですね。
それから、いろいろな新聞が全て横断検索できると、それぞれの新聞の性格を考えずに、全て並列して見てしまう傾向があります。もちろん、ある程度勉強している人はふるいにかけることができますが、学生を見ていると、読売新聞も朝日新聞も毎日新聞も全て同じと思っているようです。しかし、本当はどの新聞も視点が違うわけで、そうした重心のずれがあることを認識せずに記事を扱うことは危険なのです。でも、逆にその重心の違いを教えることが、大学の責任かもしれませんね。便利なような不幸なような贅沢な悩みですが。人間は常に、便利さの落とし穴を考えなければいけないのではないでしょうか?しかし、一方で、便利になったという事実は否めません。今までなら、丸一日かけて東京まで行ってマイクロフィルムを借りて調べていましたし、ハワイ大学にも情報検索のためだけを目的に出かけた時期もありました。その時代から考えれば、ここにいながらにして全てが調べられるという現在の情報環境は素晴らしいことです。
Q Googleなどの団体が、現在著作権の消滅している新聞のデジタル化と無料公開を進めていますが、
それによってTDAの存在意義が薄まると考えられますか?
A 私は、著作権の権威が忘れ去られていくのではないかという危惧を抱いています。我々は、著作権とはいったい何に対する権利なのかを考え直さなければならない時期に来ているかもしれませんね。例え著作権が消滅していても、作品を生み出すまでの苦労や、苦労してそれを生み出した人への敬意を忘れてはいけない。あとは、良識が働くかどうかという問題でしょう。
Q 授業やゼミの中でTDAを活用されていますか?
A 学部レベルの授業の中で実際に活用するにはやや専門的すぎますが、こうしたデータベースがあることは、必ず学生には紹介しています。残念ながら、今現在これを活用して研究を進めている学生はいませんが、かつて、私の教え子に明治時代の日本で発行された外国新聞広告の研究をしていた学生がいました。その時に、TDAがあれば、非常におもしろい研究になっただろうと思いますよ。もちろん、今後もそういう学生が出てくる可能性はありますし、自分のレパートリーを広げたいと思う人がいれば、TDAは非常に有益な情報を提供してくれるデータベースと言えますね。
Q 先生のゼミの生徒さんや、先生のご研究分野を学ぶ学生さんにも、
是非TDAをご利用いただきたいと思いますが、
その方たちに向けてTDAの魅力を伝えるメッセージをいただけますか?
A 「イギリスの百科事典を手元に!」といったところでしょうか。-百科事典のように使えるデータベースが、想像力を引き出す機会を与えてくれます。やはり、データベースは使ってみなければ良さはわかりません。いくら説明されても、自分で実際に何かを探してみなければ、その良さや楽しさは理解できないのです。最初は、服の上から掻いているような気がしますが、そのうち慣れてくると、かゆいところに手が届くようになるものなのです。そして、釣りの快感に似ているかもしれませんが、ねらっていたものがヒットした時の快感が僕は大好きです。それから、データベースは、時間をかけて利用してほしいですね。5分や10分で情報を得ようと思うと、返って不満が残ります。そんなに簡単に欲しい情報は手に入らない。むしろ簡単に出ないから価値があるのです。試行錯誤する過程を忘れないでほしいですね。人間は、間違ったことをやっていると、そこから何かを得ることもあるのです。それに、なぜ間違ったかというのは記憶に残るものですから。最後にアドバイスとして、検索ノートをつけることをお奨めします。どういうキーワードで検索したかを残しておかないと同じ過ちを犯してしまったり、同じ情報に二度と辿り着けなくなるかもしれませんからね。ログノートを片手に、時間をかけてじっくりやれば、楽しめる世界がきっと広がります。

 

先生のプロファイル主な著編書近藤先生 ホームページ

横山 學(よこやま・まなぶ)

■ノートルダム清心女子大学 教授

■文化史学 人物史研究

■琉球使節渡来の研究

■江戸期琉球物資料収覧

■琉球所属問題関係資料(編著)

■神戸貿易新聞(編著)

■文化の諸相(共著)

書物に魅せられた英国人―フランク・ホーレーと日本文化 (歴史文化ライブラリー) [ハードカバー]書物に魅せられた英国人―フランク・ホーレーと
日本文化 (歴史文化ライブラリー) [ハードカバー]

 

ハワイ大学図書館掲載の研究論文↓

http://www.hawaii.edu/asiaref/japan/special/sakamaki/hwarticle1.htm
http://www.hawaii.edu/asiaref/japan/special/sakamaki/hwphoto.htm
http://www.hawaii.edu/asiaref/japan/special/sakamaki/hwzoshotxt.htm
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