井野瀬 久美恵先生

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井野瀬 久美恵先生
「他の新聞もデジタル化されていればと
 何度思ったか知れません 」
Q  先生の研究分野を教えていただけますか?
A 私は、ヨーロッパ大陸の西端に浮かぶ島国イギリスが膨張して帝国となり、その後収縮、衰退していった「歴史的事件」に関心を持ってきました。その意味からは、現代まだ終わりを告げていない大英帝国の歴史を含めて、20世紀へとつながるイギリス近現代史が、研究対象といえます。私は、近代、現代という時間において、イギリスは決して島国ではなかったし、今なおそうではないと思っています。ですから、イギリスと関わった世界中の地域が研究対象といえるかもしれません。人やモノ、文化や情報の動きを、イギリスの拡大と収縮の歴史を通して研究している、といえば、多少は具体的なイメージが伝わるでしょうか。
Q 先生は、現在、TDAを使ってどのような研究をされていますか?
A  ごく最近まで、この4月に出版される本を執筆しておりましたが、その執筆中には、TDAから戦争関連の情報の詳細をかなり正確に知ることができました。「ロンドン・タイムズ」の読者層には政治家も含まれていましたから、「ロンドン・タイムズ」が戦争情報をどう伝えているかということは、大英帝国の戦争を見る目線を理解する上で欠かすことはできません。「ロンドン・タイムズ」はクリミア戦争から従軍記者を送るようになりましたが、彼らが書いた記事からは、帝国全盛期の戦争やその情勢がわかるだけでなく、戦地に赴いた従軍記者たちが何を伝えようとしていたか、そこからは、イギリスの世論形成のありようも見えてきます。最新刊の著作では、今年、2007年が奴隷貿易廃止200周年ということもあり、戦争以外にも、奴隷貿易の廃止というテーマを大きく取り扱いました。奴隷貿易廃止法案が議会を通過した1807年のことですが、それがナポレオン戦争中の出来事であることを見逃してはなりません。平和な時代であれば「人道主義に基づいて」という見方が中心になるのでしょうが、宿敵フランスとの戦争中に奴隷貿易を廃止するということになれば、その裏に何か思惑があるだろうことは容易に想像できましょう。そうした歴史の構図を総体的に眺めるのに、新聞は格好の材料となります。あるテーマ、ある素材の流れを追うことができるからです。しかも、それぞれの新聞記事は、決して単体ではありません。その隣にどんな記事が掲載されたかもまた、時に重要な意味を持ちます。新聞の面白さ、魅力のひとつはそこにあるといえましょう。TDAの素晴らしさは、紙面そのままの形が提供されていて、その記事の相対的な位置関係をも知ることができるところにあると思います。現在、海外での学会発表のために現在準備を進めている研究の一つに、「日露戦争がサハラ以南の地域に与えた影響」というテーマがありますが、ここでもTDAを利用しています。日露戦争が世界に与えた影響に関しては、中国、インド、エジプトあたりまでは研究されていますが、いわゆる「ブラック・アフリカ」と呼ばれるサハラ以南の地域に関しては、いまだほとんど分析されていないのが現状です。とはいえ、非ヨーロッパの小国である日本がヨーロッパの大国ロシアに勝利した日露戦争は、さまざまな意味合いにおいて、世界各地の人々のものの見方を変えるきっかけとなった「事件」だといえます。日英同盟に基づき、ロシアのバルチック艦隊が大英帝国に属するアフリカ沿岸の諸港に立ち寄ることを拒否したこともあって、日露戦争は、サハラ以南の人びと(もちろん、すべてではありませんが)にもその過程が見える戦争でした。実際、「タイムズ」を読むと、そうした部分もまた見えてくるのです。

また、自分の研究だけではなく、学生たちにとっても、TDAは、新聞とは誰が何をどういう立場でどのように伝えているか、逆に何を伝えていないかなどを学生に考えさせるのに格好の教材です。学生には、常に書き手を意識しながら記事を読ませることにしていますし、自分自身もそういう意識で「記事の裏側」を読むことに努めています。

「具体例を見せれば、学生も必ず反応します」
Q TDAの導入でどのような研究が可能になると思われますか?
A 現在の歴史学の世界では意見は分かれるでしょうが、私は、歴史とは、ある部分、「記憶の問題」でもあると考えています。絶え間なく流れる時間の流れのなかで、どこをどうやって切り取るかによって見え方は違いますし、また、それぞれの歴史家がどの場面をどう描くかによって、異なる「物語」ができます。大切なことは、歴史にはいろいろな「物語」があることを認めたうえで、それらを対比させる視点を持つことでしょう。しかも、記憶は、たえず書き直されていきます。なぜなら、出来事は、常に書き手が存在するその時々の「今」のなかで、その状況と関連させながら再記憶化されていくものだからです。例えば、奴隷貿易廃止の話も、100周年にあたる1907年の時代状況の中でこの問題を語るのと、国内に大量の非白人移民を引き受けた今のイギリス、そして9.11事件を経験した2007年という現代において1807年の奴隷貿易廃止の意義を考えるのとでは、全く捉え方が違っているでしょう。

「歴史はすべからく現代史である」という有名な言葉があります。歴史叙述は、書き手が生きている「今」、当時の「現代」の視点からたえず書き直されていくものです。もちろん、ある出来事がおこったという事実やその事実関係そのものは変わらないでしょうが、それをどう伝えるか、あるいは描くかは、どんな時代にその出来事を語るかによって大きく変わってくるのです。

奴隷貿易廃止にひきつけていえば、今年3月、奴隷貿易廃止法案通過200周年に際して、イギリスのブレア首相は、公式謝罪は行わなかったものの、奴隷貿易への「深い悲しみと後悔」を表明しました。1907年の100周年の時代にはありえなかったことです。100年の時間の流れのなかで、この出来事をあらためて記憶に刻む意味が浮上し、新しく別の記憶に置き換えられたのです。歴史が「それをどのように叙述するか」の問題でもある以上、今という時代を置き去りにしてはありえないことを、この事例からも読みとれるでしょう。

「歴史的事実」とは、過去に起こった事ではなく、それがどのように後世に伝えられていくか、そしてその記憶がどのように再記憶化されていくかの問題もあります。その場合、TDAのキーワード検索がもたらすメリットは、一言では言い尽くすことができないほど大きなものとなります。

繰り返すようですが、歴史とは、記憶の積み重ねで構成されています。歴史上の出来事の価値は、現代を生きている人間によって、その多くが決められてしまうものです。それは、出来事のみならず、人物に対しても同じです。日本でも、近年、大化の改新で暗殺された蘇我入鹿が再評価されていますよね。イギリスでは、オリバー・クロムウェル(1599-1659)の記憶が好例かもしれません。TDAが対象とする1785年から1985年、クロムウェルはもはや生きていませんが、実際に検索をかけてみると、彼の名が「タイムズ」の記事に登場しているのです。時は、19世紀末の1899年。20世紀を迎えるにあたり、国会議事堂の前に銅像を立てる計画が持ち上がり、選ばれたのがクロムウェルでした。王(チャールズ1世)を処刑した人物の銅像を立てるには、様々な議論が巻き起こったことでしょう。その点からすれば、オリバー・クロムウェルの話は、決して17世紀だけの話ではなく、19世紀、20世紀の話にもなるのです。こうした「歴史と記憶の狭間」をどう考えるか - この問題は、私がたえず学生たちに問いかけつづけていることです。そして、TDAを使えば、それをきわめてわかりやすい事例として学生に具体的に見せることができるのです。なぜクロムウェルが選ばれたのか?他にはどんな候補がいたのか? そうしたこともまた「タイムズ」には書かれていますが、紙面をめくりながら探すのは大変です。でも、TDAを使って検索すれば、さほど時間をかけずにそのページにたどり着けるのです。たどり着いた記事をどう考えるか、そこに何を読みとるか - そこからが、われわれの問題ですね。

考えてみれば、研究者としての私と、教育者としての私は同じスタンスなのかもしれません。教育者として、学生とともにTDAを検索する私と、学者としてTDAを使っている私の間に、まったく隔たりはないのです。なぜなら、TDAで見つけることができる具体例を見せれば、学生もかならず反応します。研究者の私がそうであるように・・・。

「ロンドンタイムスは、(第一級の時代の証言)」
Q 歴史的に見て、ロンドン・タイムズはどのような新聞であったか教えて下さい。
A ロンドン・タイムズの最大のメリットは、ほとんど途切れていないことですね。それから、読者層が政治家や文化人、知識人ら、言うなればその時代のオピニオンリーダーであったこと。その意味で、まさに「第一級の時代の証言」ですね。タイムズは、社会を動かす世論の意見が集約された新聞だといえます。そして、その保守的な姿勢ゆえに、安定した地位を確保しつづけることのできた新聞でもありました。19世紀の終わりになると、他にも有力な新聞が登場してきます。ロンドン・タイムズは、ロンドンを中心に編集された新聞でしたので、それに対抗する視点、それとは異なる見解を打ちだした新聞も刊行されました。地方紙だった「マンチェスター・ガーディアン」はその好例でしょう。その後「ガーディアン」という全国紙に発展し、今なお、大学人の間で購読者が多い新聞です。様々な新聞が現れるなか、「ロンドン・タイムズ」は、常に一つの指標であり続けてきました。そこにタイムズの面白さ、魅力があります。

イギリスの場合、クォリティペーパー、いわゆる高級紙の読者層は、大衆紙とはかなり違いますが、その意味でも、タイムズは信頼できる情報が詰まって新聞といえるでしょう。ただ、タイムズに書かれていることが真実であるかどうかは、他のメディアとつきあわせて考える必要があります。私自身は、タイムズとガーディアンを合わせ鏡で読むようにしています。例えば、アイルランドやボーア戦争に対する見方は、タイムズとガーディアンでは対照的です。今後、ガーディアンのデジタル版ができれば、もっと研究の幅が広がるのではないかと思っています。

Q TDAのようなフルテキスト新聞データベースが、今後、
歴史研究をどのように変えていくと思われますか?
A 歴史の見方を大きく変えると思います。「歴史は単なる出来事史ではない」という見方が、今以上に強くなっていくのではないでしょうか。起こった出来事がその後の歴史にいかなる影響を及ぼしたかということに、人々の関心の大きな重心が移っていくと私自身は思います。例を挙げましょう。私が調べていることの一つに、「謝罪」が歴史の中でどう扱われてきたかというテーマがあります。20世紀末、アパルトヘイト廃止後の南アフリカでは、マンデラ大統領によって真実和解委員会(RTC)が設置されましたが、その目的は、アパルトヘイトの調査と和解であり、判決を出すのではなく、真相を明らかにすることにありました。そこに登場するのがなんと、19世紀のイギリスの政治家、グラッドストンの話です。なぜ現代の南アフリカの問題にグラッドストンが出てくるのでしょうか?TDAをキーワード検索してみると、彼がある議会で和解の問題について演説を行っていたことがわかります。この例に見られるように、現代と過去はいろんな結びつき方をしています。時に間違った引用がなされることもありますが、そのこと自体、「記憶の問題」として興味深いですよね。こうした記憶の確認作業もまた、TDAを使えば可能になるのです。新聞データベースは、歴史研究のあり方そのものを変えていくでしょうね。そのなかで、歴史研究は、出来事をどう解釈するかを今以上に大きな問題として抱えることになるでしょうし、その解釈の仕方も、われわれがどのようにその出来事を捉えるかという問題とともに、われわれの時代以前の人々がこの出来事をどう捉えていたかにも、ますます目配りされるようになるでしょう。

歴史研究においては、起こったことが重要であるとともに、それが、どのように人々に伝わったかもまた大事なことです。出来事に続く政治問題や社会問題、文化摩擦といった流れでその出来事を捉え、検証するためにも、TDAは必要不可欠なツールではないでしょうか。

「研究の省エネ化」
Q マイクロフィルム版をすでに所蔵している機関も、あえてTDAを導入すべきだと思われますか?
A 一つの事件を、短いタイムスパンで追う場合には、マイクロフィルムでもいいでしょうが、一度TDAを使うと、マイクロフィルムはもはや使えませんね。「研究の省エネ化」です!(笑)資料収集にではなく、その分析や考察に時間を費やせることを考えれば、デジタル版のメリットはかなり大きいと思われます。
「研究の省エネ化」ですか。いい言葉ですね!
 そうです。TDAを使えば、ビデオと同じで「時間を買う」ことができます。とりわけ、人物史、事件史を扱う人には、絶対にお奨めします。事件は起こった時よりその後が大事で、特に戦争はどう終わるか、そして終結後どうするか、どうしたかが問題です。それを追うには、マイクロでは限界がありますから。それに対して、TDAは、調べれば調べるほど情報が出てきて、ほんとうに楽しくなってしまいます(笑)。
 先生をますますお忙しくさせてしまいますね・・・。
 ええ、でもそれは嬉しい悲鳴です。他の新聞もデジタル化されていればと思ったことが何度あるかしれません。それから、マイクロの場合は、こちらが仕掛けないと情報を取り出せませんが、デジタルは、検索すればこちらがまったく未知だった情報をも返してくれます。つまり、一方通行ではなく、双方向なのです。インタラクティブであることが、デジタル版であるTDAの最大のメリットではないでしょうか。まだ、TDAを使われたことのない方々に申し上げたいのですが、検索して返ってきたものを見ると、時に「目から鱗が・・・」の思いをさせられます。と同時に、イギリスの新聞は世界を網羅していた、世界各地に目を光らせていたことを痛感させられますね。だからこそ、タイムズを読むことによって、学生は視界を広げることができるのです。学生たちは、当時の新聞を見ることのできる事実そのものにまずは驚きます。その知的な驚きは、彼らの人生において必ずプラスになると私は思っています。
 先生のゼミで、実際に、TDAを利用して研究している学生さんはいらっしゃいますか?
私の教え子の中に、奴隷貿易廃止が、黒人にどういう影響が与えたかを研究している院生がいますが、彼女はよくTDAを利用しています。検索しないと調べられない情報ばかりですから、TDAは重宝しているようです。
実際に学生さんが利用されているのは、何より嬉しい情報です。授業でも活用してくださっているようですし、理想的な利用をしていただいていますね。
行間を読む作業といいましょうか。第一次資料の新聞だからこそ、それを書いた人間が何を伝えたかったのかを、学生たちに考えさせることができます。今の学生たちを見ていると、人に物を伝えるという力が落ちている気がすることが少なくありません。それもあって、新聞を、それも過去の新聞記事を読ませることを積極的に講義に取り入れてきました。私の講義にとってTDAは理想的な教材なのです。私自身は歴史家ですから、何が伝えられているか、そして何が伝えられていないかが常に気になります。その意味でも、新聞はそうした意識が鍛えられる宝庫です。もちろん、タイムズは言うまでもありません。
Q Googleなどの団体が情報の無料公開を進めていますが、著作権を意識した時、
先生はこうした動きをどう思われますか?
A 難しい問題ですね。著作権が何のために存在するのかという問題と同じ議論ですよね。物を書いている立場として、私が最も危惧するのは、コンテクスト(文脈)がテクストから失われてしまうことです。つまり、情報が無料化されると、誰でも情報に簡単に、無自覚にアクセスできるわけですから、私が使ったある言葉がまったく異なるコンテクストで独り歩きしてしまう可能性を考えると、とても怖いですね。コンテクストごとテクストを守るためには、料金を徴収するとか、会員制にするなどのフィルターをかけることは、しかるべき手段なのかもしれませんね。インターネットの世界は、約束事があるようで無い世界です。学生に課題を出すと、今の学生はみなインターネットで調べてきます。それ自体はかまわないのですが、その場合には、情報の信憑性を確認することを徹底させています。インターネットの怖さ、だからこそ守らねばならないルールがあることを教えるのも教育者としての責務であると私は考えます。
ここでも、先生の教育者としての姿勢があらわれていらっしゃいますね。
そうですか(笑)。今まで、教育者としての自分をあまり意識したことはなかったのですが、例えば、TDAを自分が使ってみて、学生にも使わせたいと思ってしまうのは、おそらく自然と教育者としての顔になっているからでしょうね。いつも、自分が面白いと思うことを分かってほしいという思いで話しているのですが、考えてみれば、それが教育の基本なのですね。相手に分かってほしいから、言葉もまた、意識的に選びながら話していると思います。
先生の言葉には力があります。思わず身を乗り出して、もっと聞きたいと思わせるような不思議な力です。実は、今日も、講義をお聞きしているような感覚です
 ありがとうございます。歴史家という存在そのものに、時代に教わりながら教えているという側面があるのかもしれません。常に、時代の流れの中で物事を見る癖がついているせいでしょうか。成果主義の現代は結果をすぐに求めるようですが、歴史家は、単年度で物事を見ることはしないものです。私は、1年後2年後のことは分からないけれど、50年後のことだったら分かりますよ(笑)。それから、歴史家が物事を見る時には、自分が生きている時代、「現代」という時代ははずせないと思っています。今の時代を生きている自分がこれを読んでいる/見ている/聞いている、という切り口を忘れてはいけません。ですから、過去のみならず、現代をどう見ているかという目も問われてきます。そして、現代を意識すればするほど、重要な意味を帯びてくるのが、TDAのキーワード検索です。今話題になっている言葉があれば、この言葉はいつ頃から使われたのだろうとか、当時はどういう意味で使われていたのだろうかと思って検索してみます。例えば、revolutionやclassを検索すると、今とは全然違うコンテクストが出てきます。そして、その「発見」は自分の勉強にもなるし、学生にも伝えることができます。言葉にセンシティブになり、その言葉を歴史の中で探ってみるという意味においても、TDAは間口を広げてくれます。そうした思考ができるからこそ、人文学は大事な学問であると思います。もちろん、医学や工学などの理工系の学問も、経済学や法学などの社会科学も、時代を前進させるのに重要な役割を果たします。しかし、時代の進展においては、どこかに必ず「歪み」のようなものが生まれるわけで、その歪みの存在を意識し、それを議論できる学問は人文学ではないでしょうか。
 先生の言葉に対するこだわりが伝わってくるようです。
 私が言葉にこだわるのは、言葉の怖さを知っているからでしょうね。ですから、検索する言葉にもこだわりたいと思います。学生は、検索する言葉自体が分からないとよく言います。言葉を鍛える意味でも検索は大事ですね。
 「TDAは、感性の間口を広げてくれます」
Q  画面の使いやすさや機能はいかがですか?改善点があれば教えてください。
A  画面の機能やOCRの精度は全く問題ありません。一つ要望を言えば、学生たちにもっとTDAを使わせたいので、Googleのようなスペルチェックがあるといいですね。学生を見ていると、スペルを間違って入力して、入口でつまずいてしまうことが少なくありませんから。
 是非、検討させていただきます。
何と言っても、学生や院生が使えるというのは大きなメリットです。私のゼミでは、社会に出てプレゼンができるということを第一目標に掲げています。院生だけでなく、学部生も、3、4回生から卒業論文を意識しながら、その中間報告のプレゼンテーションの際に、新聞記事をどう織り込ませるかを実体験させるという意味を含めて、TDAを利用しています。学生達は、当時の生ニュースに触れて、そこから、当時の人々がこれを読んでどう思ったかという疑問を持ったとき、当時を再現しなくてはならない。そのためには、例えば、タイムズ以外には情報を得るどのような手段があったのだろうかと、立体的に考察を進めはじめます。そして、時代を再構築する作業のなかで、その面白さと難しさとを体験していっているようです。TDAを通して、ある記事をどういう人たちがどう読んだのかを考えていくことで、中身を多様に膨らませる講義が可能になります。歴史は想像力の問題でもありますが、フィクションではないですから、根拠のしっかりとした想像でなければなりません。そのためには、自分の頭の中の想像を確実にしてくれる証拠を揃えなければなりません。それも、ひとつではだめなのです。その際、新聞は出発点となり、新聞の情報をさらに補強する情報をどこでどのように入手できるかなどを考えるなかで、学生たちの考察と分析の力は鍛えられていきます。この思考の広がりこそが、研究にとって大きな要素でしょう。TDAは、研究の裾野を大きく広げていくと思われます。
Q 最後に、先生のゼミの生徒さんや、先生のご研究分野を学ぶ学生さんに向けて、
メッセージをお願いできますでしょうか?
A 一人でも多くの学生さんにTDAを使ってほしいですね。TDAは、感性の間口を広げてくれます。研究という枠に捉われる必要はありません。好きなものが分からなくなったり、方向性を見失いかけたりしたら、何かキーワードを入れてみるといい。そうすると、かならず何らかの答えが出てくる。それを見ながら、「そうか、この時代の人はこんな風に考えていたんだ」などと思うなかで、開かれてくる扉もあるのです。それが、研究に直結するかしないかは、関係ない。研究は人生のごく一部ですもの。それから、いつもゼミの学生に言うのですが、社会に出てプレゼンをする時に、「何年のタイムズではこう言っています」なんて言えたら、カッコいいじゃないですか?私たちの足元は、過去とグローバルに繋がっています。縦軸に時間軸、そして横軸には空間軸、それを掛け合わせる作業こそが、TDAが可能にしてくれる世界だといえるでしょう。

そんな時間旅行をぜひとも楽しんで下さい。それは、今の自分ときっとどこかで繋がっているはずです。

先生のプロファイル主な著編書
井野瀬 久美恵 (いのせくみえ)1958年、愛知県生まれ。
京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。
博士(文学)。
現在、甲南大学文学部教授。専門は、イギリス近現代史、大英帝国史。
兵庫県長期ビジョン委員会、大阪府河川整備委員会、朝日放送番組審議会などの委員を歴任。

民のモラル―近世イギリスの文化と社会 (歴史のフロンティア) [ハードカバー]大英帝国という経験

 

植民地経験のゆくえ―アリス・グリーンのサロンと世紀転換期の大英帝国 [単行本]植民地経験のゆくえ
―アリス・グリーンのサロンと世紀転換期の大英帝国
[単行本]

 

黒人王、白人王に謁見す―ある絵画のなかの大英帝国 (ヒストリア) [単行本]黒人王、白人王に謁見す
―ある絵画のなかの大英帝国 (ヒストリア)
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